クロガネ・ジェネシス

第45話 雷災龍《レイジンガ》
第46話 血で血を洗う
第47話 暴君龍vs修羅
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第ニ章 アルテノス蹂 躙じゅうりん

第46話
血で血を洗う



 零児が前にでる。ゆっくりと雷災龍《レイジンガ》の亜人、レジーへと接近していく。

 レジーもまたゆっくりと歩みを進める。

 緊張の糸がこれでもかというくらい張りつめ、2人の距離が近づく。

 否、緊張しているのは零児達だけなのか、レジーも緊張しているのかは定かではない。ただ1つだけいえるのは、今この場にある緊張は、火のついた導火線同然であるということだった。

 互いの間に阻むものはない。ただ距離だけが近づいていく。直後、緊張は一気に爆ぜた。

 零児は右手から刃を一瞬で、まるで鞘に収められた刃を引き抜くかのように作り出した。それを両手で持つと同時に、レジーの体を横一線に切り払う。

 レジーは恐るべき跳躍力でそれを回避した。光るレジーの右手。それが雷《いかずち》を落とす直前のモーションであると気づくのに数瞬とかからなかった。

「散会!!」

 零児の声と同時に全員その場から離脱する。

 直後、雷は大地を抉り飛ばした。刹那の差で、全員それを回避する。

 そしてレジーは大地に降り立つ。その一瞬に出来た隙を、零児は逃さなかった。一気に接近しての飛び切り。しかし、その刃はレジーの体に掠《かす》ることさえなかった。

 瞬時に零児の横に並ぶ。零児の体は真横から殴り飛ばされた。

「グッ……!」

 地面を転がる。続けて、バゼルがレジーの前に躍り出た。

 2人の亜人が拳と爪を交える。バゼルは零児が殴り飛ばされた瞬間から、自らの拳を放っていた。レジーは身を屈めて交わし、同じように拳を放つ。

 時に拳同士がぶつかり合い、伸びた爪はお互いを傷つけあう。お互いに繰り出す拳の速度はもはや弾丸に近い。それを放ち、また回避と防御を行う。どちらも、人間から見れば異次元のレベルだ。

 発生する隙は一瞬。全力で振るう拳に、人間が仲介する余地は一瞬たりとも存在し得ない。

 埒があかないと判断したのか、バゼルはレジーの繰り出した拳を両手で掴んだ。

「ムンッ!!」

 間髪入れず、鈍い音が響く。それはレジーの腕の骨が折れた音だった。

「ウォリャアアアア!!」

「!!」

 間髪入れずレジーが殴り飛ばされる。

 ギンの拳がレジーの顔面をとらえたのだ。レジーの体は低空ではあるが大きく飛ばされる。

 バゼルと零児が叫んだ。

「隙を作るなぁ!!」

「一斉攻撃!!」

 ネル、シャロン、エメリスの3人が反応する。

 ネルは反撃に備え構え、シャロンとエメリスは光の錐を大量に生みだし、雨の如くレジーに向けて発射する。

 光の錐は一見レジーの肉体に突き刺さりダメージを与えているように見えた。しかし、レジーは光の錐が体中に突き刺さりながらも、立ち上がる。そして、眼孔を鋭く光らせ、エメリスとシャロン目掛けて走り出した。

 ネルはレジーの動きを遮る形で前へとでる。

「サイクロン・マグナム!!」

 風をまとった強烈な拳の魔術。それが迫りくるレジー目掛けて放たれた。

 拳は確実にレジーの胸部を捕らえていた。しかし、目で追うことすら困難な速度で走るレジーを、拳1つで止められるほど甘くはなかった。

「アアッ……!」

 ネルの体が宙を舞う。

 レジーはネルの拳を確かに食らいながらその拳ごとネルを弾き飛ばしたのだ。そしてそのまま走り抜け、シャロンとエメリスに接近する。

 エメリスはレジーの接近間近で、左手を突き出し、衝撃波を放つ。その衝撃波を受け、レジーの動きが鈍る。

 その隙をつく形で、シャロンはレーザーブレスを放った。レジーはそれを横に跳び、回避した。

 零児とバゼルがレジーに隣接したのはその直後だった。

「剣の弾倉《ソード・シリンダー》!!」

 零児の右手から無数の刃が作り出され発射される。その刃はレジーの腹部、胸部にかけてほとんどが突き刺さる。しかしその刃はかなり浅く刺さっていて十分なダメージを与えているとは思えない。

 しかし、零児が作り出した刃はただ突き刺す以外にも利点がある。

「散!」

 そう、刃の爆散である。たとえ浅かろうと、刺さっていたり至近距離であるならば、ダメージは十分に大きい。それどころか、普通の人間や亜人なら体が木っ端微塵に吹き飛んでいるところだ。

 ネルはその状況を見て叫ぶ。

「殺ったの!?」

「いや、まだだぁ!!」

 レジーは爆煙の中から姿を表す。傷口は零児達をあざ笑うかのように再生していく。

「おのれ化け物ォ!」

 叫び、バゼルは再びレジーと肉弾戦に突入する。

 バゼルは自身の爪を武器に、レジーに切りつける。

 速さで上回るレジーを、バゼルは格闘の技術を駆使して、堅実にダメージを与えていく。

 しかし、いくら切り裂いても有効なダメージを与えているとは言い難い。なにせいくら切り裂いても即刻傷口が回復するのだ。

「クッ! おのれなぜだ!?」

 バゼルが戦っている間、零児、ネル、ギンの3人も近づいていく。零児はその中で真っ先に接近し、レジーの腹部を蹴り飛ばす。

「効かないっつの!」

 蹴り飛ばされたレジーの顔面目掛けて、今度はネルが構える。

「サイクロン・マグナム!」

 打ち出された渾身の一撃。レジーはその拳を手の平で受け止めた。レジーの体が若干後退する。しかし、やはりダメージがあったのかどうか判断できない。

 零児は両手剣、トゥ・ハンド・ソードを作り出す。そして、レジーの腕目掛けて降り下ろした。刃はレジーの右腕を切り裂いた。しかし、両断には至らない。ネルの拳を掴んでいた手が離れる。

「散!」

 直後、零児はトゥ・ハンド・ソードを爆散させた。

「ナマイキ!!」

 レジーはそれでも止まらない。ギンはレジーに一瞬の隙も見せまいと、即座に接近し、殴り飛ばした。

 続けざまに、エメリスが光の壁を作り出す。大小さまざまな光の壁は、幾重にも重なり、レジーの体を押し出していく。1枚、2枚と発生する度に、レジーの体は遠くに押されていく。

 光の壁の連なりは、レジーが民家の壁に激突するまで続いた。

 勿論、誰もがそれで終わるとは思っていなかった。それよりも、どうすれば倒せるかがわからない恐怖の方が大きかった。

 民家の壁からレジーが飛び出る。猛然としたスピードで。視認できたのは、ある程度の距離があったからだ。近距離では目に見えぬスピードとなっていたに違いない。

 全員が予想する。レジーの次なる一手を。見てからでは遅すぎる。だから予想する。しかし、予想する暇などなきに等しかった。

 レジーはその恐るべき速さで、エメリスを狙った。

「エメリス! 避け……!」

 零児の言葉は間に合わない。

 その豪腕はエメリスの頭を鷲掴みにした。声を上げることすら出来ない。そしてそのまま頭を地面に押しつけながら走り出す。エメリスの血が1本の掠れた線を描いていく。

 零児達は追いかける。しかし、走って追いつけるような速さではない。

 やがてレジーは大きく跳躍し、既に動かなくなったエメリスを、ぼろ雑巾か何かのように地面に叩きつけた。

 エメリスの体の骨が所々砕け散り、腕や足の骨があり得ない方向に折れ曲がり、彼女の体を中心に血液が広がっていく。人間の姿形をしていた『モノ』が、今では人間とは似ても似つかない奇形に姿を変えている。その様は赤い絵の具を大量に使った、グロテスクな絵画のようだった。

「エメリス――――――!!」

 零児は叫んだ。その声が無意味であることがわかっていながらも。

 一方のレジーはさらに容赦なかった。空中で両腕を降り下ろし、エメリス目掛けて雷《いかずち》を叩き落とす。次の瞬間、エメリスの体は地面と共に粉々に砕け散った。

 雷鳴は処刑の音となり、否応なく耳に残る。

 ――……!!?

 零児の思考が停止する。指先が震える。体中に悪寒が走り、瞳孔が見開かれていく。

 信じられなかった。自分の目の前で誰かが死んだことが。こんなにも残酷なまでに死神になりきれるレジーの非情さが信じられなかった。

 僅かに残る血の跡。そしてレジーの体だった『ナニカ』が零児の網膜に焼き付いて離れない。それはバゼルやネルも同じことだった。しかし、今はエメリスの死を弔う余裕などない。次は自分がこうなるかもしれないのだ。そう考えることでしか、レジー打倒に心を向けることが出来なかった。

「あ……ああ……!」

 零児は呆然と立ち尽くす。言葉がでてこない。そんな場合でないことは頭では理解している。しかし、心が凍り付いて体を動かしてくれない。

「死んだ……シんじまった……」

「クロガネ君!」

 ネルが零児の正面に立ち、その瞳を覗き込む。

「しっかりしてクロガネ君! 気を確かに持って!」

「なんでだよ……? なんでだよ、なんでだよ……!?」

「クロガネ君!!」

「ネル! 放っておけ! 死にたいのか!?」

 バゼルの声が聞こえてくる。ネルは一瞬迷い、そして零児をその場に置いていくことを選んだ。今の零児は戦力にならない。ならばせめて、自分が零児の分まで戦おうと思った。



「あなた、許さない!」

 シャロンの心が燃える。怒りと悲しみ。そして憎悪。それらが入り交じった感情で、エメリスの死を尊び、レジーを睨む。

 上空より落ちゆくレジーの体を、今度はシャロンの光の壁が弾き飛ばす。レジーは地面を軽く転がり、そして立ち上がりながら口を開く。

「このガキが!」

 シャロンはなおも光の壁でレジーを弾き飛ばそうとする。幾重にも重なる光の壁。しかし、レジーはその光の壁目掛けて自らの拳を叩き込んだ。

 光の壁は一斉に割れ始める。薄く張られた氷のように砕け散っていく。

「ウッ……ウウ!」

 シャロンは顔をしかめる。新たな光の壁を作り出しても破壊される枚数が多すぎる。魔力がどんどん削られていく。

 そこにネルとバゼル、そしてギンの3人が駆けつける。

「シャロンちゃん!」

「レジー貴様!」

「絶対に許しゃしねぇ!!」

「お前達もいい加減にうざいんだよ!!」

 レジーは右腕から電撃を漲《みなぎ》らせる。そして、電撃が迸《ほとばし》る拳をネル達3人に目掛けて発射する。

 そのモーションを察知し、3人はその場で散会する。直後、巨大な爆発が起こり、3人は背後から大きく吹き飛ばされる。

「そこのガキ! 次はお前だ!」

「……!!」

 レジーは次の標的をシャロンに定める。

「受け止めてみろ! 私の雷を!!」

 勿論、レジーの雷をまともに食らうわけにはいかない。シャロンは大急ぎで走り出す。

 レジーが跳躍する。そして両腕を降り下ろし、三度雷《いかずち》を大地に落とした。

「シャロンちゃん逃げてぇ!」

 無論シャロンとて全力で走る。光の壁でレジーの雷を受け止めることなどできない。

 しかし、無情にも雷は落とされた。シャロンは人形の如く宙を舞った。

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